「あれは『マルジェラ』であり、ガリアーノだ。今回のコレクションは、ガリアーノを変え、『マルジェラ』を変え、そして、ファッションの世界を変えるだろう」――。「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」(招待状には、ブランド名から「マルタン」の名前が抜けていた」)のクチュールに相当するライン「アーティザナル」の2015年春夏コレクションを見て、レンツォ・ロッソ=オンリー ザ ブレイブ代表は、こう語った。レンツォ代表の言う通りだ。ファッション界の最前線に4年ぶりに戻ってきたジョン・ガリアーノによるコレクションは、「マルジェラ」の大きな特徴である過程や時の経過を痕跡として残す脱構築的なコレクションでありつつ、彼らしい歴史ある洋服に裏打ちされたロマンティシズムを感じさせた。関係者のウワサ話によれば、事前にコレクションの一部を見た人たちは、「あれはガリアーノであって、『マルジェラ』ではない」と話したという。それは違う。あれは『マルジェラ』だった。しかし、これまでの『マルジェラ』ではなく、ガリアーノの『マルジェラ』だった。
コレクションは、3つに大別できるだろう。最初のパートは、アーティザナルラインが長年作り続けてきた“普通なら洋服に用いることはない素材で作る洋服”のパート。ファーストルックは、色ムラのあるボロボロの紙で作ったハイウエストのミニドレス。ヘムラインやバストを強調したトリミングは、ラッカーで真っ黒に塗りつぶしたミニカーだ。このパートで多用したのは、ホタテ貝などの貝殻と、PVC(ポリ塩化ビニル)、それにラッカーをぶちまけグチャグチャになってしまったレース。それらをいずれも、ガリアーノらしいテントラインやフィット&フレア、Aラインのドレスにのせ、アグリー・ビューティ(醜さの中に潜む美)を表現する。アグリー・ビューティは、たとえば没落した貴族のスタイルなどを描いてきたガリアーノにとって、ある意味得意とする表現の1つ。早くもこの段階で、ショーを見たおよそ100人の業界関係者は、ガリアーノと「マルジェラ」の親和性の高さを感じとったことだろう。
これに続いたのは、脱構築、特にメンズとウィメンズウエアの双方を解体・再構築し、性差を超越した一着に仕上げたパート。ここではクリエイションのベクトルが、ガリアーノよりはむしろ、「マルジェラ」に寄った印象だ。ビスチェドレスには、半身にだけマニッシュなジャケット、もしくはメンズライクなパンツが上下反転してのせられた。
そして最後は、ガリアーノが最も愛したルージュ(真紅)のパート。クリエイションのベクトルは、再度「マルジェラ」からガリアーノにシフトした。司祭服のようなマキシ、ホルターネックのドレス、そして脇を大きくえぐったマオカラーのドレスなどは、いずれもシンプル。その美しさに一瞬ホッとしていると、最後は再び、ジャケットで作ったトレーンを引くボリュームたっぷりのアシンメトリーで脱構築的なドレスにより、アグリー・ビューティの世界に引き込まれる。このドレスをまとったモデルは、今回のショーの中で唯一、これまでの「マルジェラ」アーティザナルラインの定番だった、マスクを被り登場した。
24のドレスやジャケットが一方通行のランウェイを足早に過ぎ去ると、今度は反対から、同じモデルが、数分前まで自分たちが纏った洋服のトワル(簡単に言えば、ダミー)を着て、反対側から現れた。トワルは、粗野なモスリンや紙で作られ、仮留めのピンなどもそのまま。「マルジェラ」のクリエイションにおいて常に価値を持つ“時の痕跡”を感じさせる。レンツォ代表は、「ガリアーノは、作品が完成するまでの全てを見せたかったようだ。ドレスは、すべてを語ってくれる。だからこそ、今回自身は何も語らないことを選んだんだ」と話した。確かに、パターンがびっしりと描きこまれた状態のトワルを見れば、それだけで、ガリアーノが第一線に復帰できた喜びに溢れていることがうかがえた。ガリアーノは、最後は自らが花道で大見えを切るなど、常に劇場のようなショーでファンタジーを振りまいてきた。「マルジェラ」流に変容はしているものの、シアトリカルな演出も健在だ。
復帰一発目のショーは、成功だったのだろうか――?ショーに招かれた100人は、今回のコレクションから、彼の華々しい第二幕の始まりを予感したようだ。その証拠は、ショーの前より、後のほうがはるかに弾んだ彼らの会話。米「ヴォーグ」のアナ・ウィンター編集長や、「ランバン」のアルベール・エルバスや「バーバリー プローサム」のクリストファー・ベイリー、ケイト・モスらのセレブや業界関係者は、ショーの前は挨拶もそこそこ自らの席に座り少し緊張しながらガリアーノの復活を待ったが、その後は多忙であろうにも関わらずしばしショー会場で語り合い、彼の現場復帰を喜び、興奮しているようだった。