「グッチ(GUCCI)」がECサイトで販売していたバラクラバ帽風のトップスが黒人差別と物議を醸した件について、マルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)社長兼最高経営責任者(CEO)が米「WWD」の独占インタビューで釈明した。
問題となったバラクラバ帽風のトップスは、口紅風のデザインが施されたタートルネックの部分から口をのぞかせることができる黒のニットで、ブラックフェイス(黒人以外の役者が黒人の役を演じるために施す化粧)を想起させると一部のツイッターユーザーなどから批判を受けた。「グッチ」は2月7日に「ウールのバラクラバのセーターが呼んだ議論について、深くお詫び申し上げます。ダイバーシティーはあらゆる決定を行う際に最初にあるべき基礎的な価値観であり、十分に支持され、尊重されるべきだとわれわれは考えています。われわれは組織全体でダイバーシティーの拡大に取り組み、この事件を『グッチ』チームにとって大きな学びに変えることに、そしてそれ以上になるように、全力で取り組んでいます」という声明文をツイッターに投稿。同商品をECサイトから削除し、店舗でも販売を中止した。
しかし騒ぎはそれだけでは収まらず、これまで「グッチ」と協業し限定コレクションの発表やショップをオープンしてきたニューヨーク・ハーレムの伝説的テーラー、ダッパー・ダン(Dapper Dan)ことダニエル・デイ(Daniel Day)がツイッターとインスタグラムで10日に声明を発表。「私はブランドである以前に、黒人だ。あるファッションブランドはこれをひどく誤解しているようだ。この種の侮辱を晴らすことができる言い訳も謝罪も存在しない。グッチのCEOはコミュニティーのメンバーや他の業界リーダーたちと共に、私に会うために今週中にイタリアからハーレムに来ることに合意した。自らの行動に責任を取らないのであればインクルーシビティーはあり得ない。私は全員に責任を問うつもりだ」と怒りをあらわにした。
12日、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)「グッチ」クリエイティブ・ディレクターは全社員1万8000人に向けて、自身のメールアドレスからメールを送信した。メールは「同僚たちへ」で始まり、「あのセーターには、人々が受け取ったのとは全く違う具体的な着想源があったとあなたたちに知ってもらうことは、私にとって非常に重要なことだ。あのセーターは、リー・バウリー(Leigh Bowery)と彼のカモフラージュアート、資本主義的な慣例や体制順応主義に挑戦する力、パフォーマーとして奇抜で並外れた存在であること、そして自由への賛歌として仮装することの彼の使命感にオマージュを捧げたものだ。その意図に反して、セーターが人種差別的なイメージを呼び起こしてしまったことに大きな悲しみを感じている。しかし、行動が意図せぬ結果を招くことはある。だからこそ説明責任を果たすことが必要だ」と本来の意図を説明した。
さらにミケーレは「慣習的にメインストリームから外れた人たち、見過ごされていると感じている人々、歴史から無視されて自分には価値がないと思い込んでいる人たちに権利を与えたかった。私が目指していることは、個人的なことや政治的な関係も密接に織り交ぜて、痛みを聖歌に変えることだ」とこのセーターを通して実現したかったことを述べ、メールの最後に「私のせいで傷ついた人々に心から申し訳なく感じており、その痛みから守りたいと思っている。私のことを知っている人たちの理解を頼りに、私の仕事を形作っているのは常にダイバーシティーへの賛辞であることを認めてもらえることを心から願っている。ダイバーシティーへの敬意こそ私が大事にしているものだ」と謝罪した。
こうした状況の中、ビッザーリ=グッチ社長兼CEOが、なぜこのようなことが起きたのかや具体的にどう問題解決に向けて取り組むのかといった質問に正直に答えた。グッチ社長兼CEOのインタビュー全文は以下の通りだ。
あなたとミケーレはこれまでインクルーシビティーやダイバーシティーの向上に取り組んできた。だからこそ今回の件はあなたたちの意志とは全くそぐわないように見える。おそらく多くの人が尋ねていると思うが、まずはなぜ今回の件が起きたのか?そしてどうしてこの商品が世に出ることにゴーサインが出たのか、そのプロセスで何か間違いがあったのかを聞きたい。
マルコ・ビッザーリ社長兼CEO(以下、ビッザーリ):今回の件は、この問題への無知が引き起こしたもの。これは言い訳ではないが、断じて意図したものではない。われわれはミスを犯した。だが本件は人々に不快感を与えてしまったために、他のミスよりも深刻だ。過去4年間社内で行ってきた取り組みがあったにもかかわらず、ダイバーシティーへの理解が欠けており、そしてわれわれが期待していたレベルの理解が、社内全体で一定でなかった。正しいレベルまで意識を向上させ、プロセスがきちんと報告されるように可視化するべく、現在このプロセスを見直している。今回の件は、知識の欠如が原因だった。
何が起こったのかをより理解するために、あなたがとりたいと思うステップは?また、この状況をどのように修正するのか?
ビッザーリ:まずは社内でこの問題を理解することだ。このところパーソンズ美術大学での会議のためにアメリカを訪れていて、店舗やわれわれのコミュニティーにいる人たちと直接話すことができた。異なる文化と異なる国の両方から来るこの問題がどれだけ深いのかを自分の目で把握するためだったが、問題が机上にありながら、はっきりと見えていなかった。
しかしアメリカのチームと対話し、先週さまざまな街を訪れ、この問題について読んで学び、この問題が世間一般だけでなく、私たちの従業員にとってどれだけ深いものなのかを理解した。なぜなら私たちの会社はグローバル企業であり、だからこそ社会の鏡でもあるからだ。どの場所でも意識と理解を高めるニーズがある。私たちが陥る可能性がある危険は、この問題の本質を皆が真剣に受け取らないという事態だ。われわれは学び、これが絶対に二度と起こらないようにしなければならない。
まずは、1番コントロールしやすいわれわれのコミュニティー内を改善したい。グッチはファミリーであり、われわれの行動もこれを反映していないといけない。この考え方と理解を全チームで迅速に共有し、店舗でも会社でもコミュニティー内の誰かがこの問題の重要性を理解できるようにしている。同じようなことが再び起こったとき、この問題に気付く力とその懸念を共有する声を上げる権利が全従業員にある。みんなが会話に参加し、その一員になることがこの問題の解決策になるよう、尊敬と信頼を育みたい。
社内外へのアプローチは、非常に迅速に動くつもりだ。可能であれば今週末までにニューヨーク、ナイロビ、東京、北京、ソウルなどの主要都市で奨学金プログラムを発表したい。これにより、クリエイティブオフィス内に多様性のあるコミュニティーを生むことができる。また、建設的かつ適切な枠組みを築くために、こうした重要なイニシアチブについてさまざまなコミュニティーのリーダーたちと話し合う予定だ。バラバラになるのではなく、われわれのコミュニティーに加わるようにみんなを招待したい。
ダッパー・ダンがニューヨークであなたと直接会って話すとSNSで明らかにしていたが、もう話したのか?まだならいつの予定か。また、これについてどう考えている?
ビッザーリ:そう、彼もこのリーダーのうちの1人だ。リーダーたちは私たちが何であるかを理解し、ポジティブな変化を生み出すために私たちに加わることを申し出てくれた。ダッパー・ダンとは透明性のある会話をし、これからどう発展させていくかというところだ。どうしたら改善できるかを聞いたり、改善する意欲を持っている人たちと誠実な会話をすることに、私たちは非常に力を入れている。話し合うことで問題を解決し、答えを見つけることができる。私は人々が差別される世界にはいたくない、自分とは違うことへの理解と尊重がある世界にいたいのだ。
ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は先月、世界中にあるさまざまな文化を知り理解するのがどれだけ難しいかについて話していた。どうしたらこれを克服できると思うか?ファッションブランドはチームメンバーがまず多様であるべきだとオブザーバーは指摘しているが、そう思うか?またこのような状況を回避するために、チームに多様なメンバーを加えようとしているか?
ビッザーリ:理解が必要なことは至るところにあり、われわれはこれを改善するために努力し続けなければならない。2015年(にチームを発足して)から、われわれの存在意義と、日単位で達成してきたこと全てはこの価値観をもとにしていて、ブランドの新たな章を築いてきた。特に、他の人を尊重しインクルーシビティーとクリエイティビティーを通してダイバーシティーを追求することはわれわれの行動の中心にあることだ。われわれが共有し、創り上げてきた企業文化があるからこそ、グッチはユニークであるのだ。
イタリアを拠点とする企業であることを考えれば、世界中の地域にいるチームが世界の代表になるための道があるように努力しなければならない。ミケーレはいつも、人との違いがわれわれのクリエイティビティーの源になり、同時にわれわれを形作っているものだと教えてくれた。行動と文化を変えるには時間がかかる。自分たちはよい立場にいたと思っていたが、私たちにはまだやるべきことがたくさんあり、早く動かなければならないことに気づいた。
人々がいかにデリケートで、常に皆が正しい立場にいなければいけないことを考えると、このような状況はほぼ避けられないのでは?
ビッザーリ:私たちは、SNSのおかげでみんなが直接的で透明性のある会話ができる世界に生きている。本来の自分を表現することができるこの環境に感謝しなければならない。しかし、現在という時間を追わなければいけないことと、現実的でなければいけないことで生まれる問題もある。これらのリスクを回避するための唯一の方法は、より多くの知識と理解を得て、誠実かつ透明性のある方法ですべてのコミュニティーと関わることだ。